企業の情報システムを管理するうえで、Webアプリケーションの脆弱性を狙った攻撃は深刻な脅威です。サイバー攻撃の手法が高度化・多様化する中、システム担当者は常に最新のセキュリティ対策を検討し、適切な防御策を講じる必要があります。その中でも、シグネチャー方式のWAFは広く採用されているセキュリティ対策のひとつです。
本記事では、セキュリティ分野におけるシグネチャー(シグネチャ)の定義や種類、重要性について解説します。活用例や導入時の流れにも触れ、シグネチャー方式の課題を解決するサービスにも言及します。
シグネチャーとは?セキュリティ分野での役割
シグネチャー(シグネチャ、signature)は、もともと「署名」や「サイン」を意味する英単語です。近年では、以下のような意味で使われることも増えています。
- 電子メールやSNS:送信者の名前や所属などの情報を文末に自動で挿入する機能
- プログラミング:メソッドや関数の名前、データの型、引数の数などを示す情報
- セキュリティ:不正アクセスやマルウェアを検知するための特徴的なデータやルール
本記事では、特にセキュリティ分野に関連して使われるシグネチャーに着目して解説します。
セキュリティ分野でのシグネチャーは、攻撃パターンやマルウェアの特徴を識別するためのデータセットや条件定義のことを指します。たとえば、WAF(Web Application Firewall)では、SQLインジェクションやクロスサイトスクリプティングといった脅威度の高い攻撃を検知・防御するために利用します。
なお、WAFとは、Webアプリケーションへの不正アクセスを防ぐためのセキュリティ対策です。Webサイトとユーザーの間の通信を監視・解析し、攻撃パターンに一致するリクエストをブロックすることで、Webアプリケーションの脆弱性を悪用した攻撃から保護します。
シグネチャーの種類
シグネチャーには以下のような種類があります。
- 電子署名(Digital Signature)
暗号技術によって生成され、文書やデジタルデータの送付者の真正性認証、改ざん検出に役立ちます。 - ウイルスを検出するシグネチャー(Virus Signature)
ウイルスやマルウェアを特定するための識別情報で、セキュリティソフトに利用されます。既知のウイルスの特徴的なパターンと照合することで脅威を迅速に検出できます。 - ネットワークシグネチャー(Network Signature)
通信パターンを確認することで、ネットワーク経由の不正な動きを検出します。SQLインジェクションやDDoS攻撃の防止に役立ちます。IPS(侵入防止システム)やIDS(侵入検知システム)に利用されます。 - データの改ざんや破損を検出する(Data Signature)
公開鍵暗号やハッシュ関数などの技術を利用して生成される識別情報です。データ作成者の証明や改ざんの有無を確認するために使用されます。
シグネチャーの重要性
セキュリティ分野において、シグネチャーはデータの安全性や信頼性を確保するために不可欠な技術です。サイバー攻撃の増加や電子取引の普及に伴い、その重要性はますます高まっています。
・データ改ざんやなりすましの防止になる
悪意ある第三者によってデータを改ざんされてしまうと、業務の運用やデータの管理などに深刻な影響をおよぼす可能性があります。シグネチャーを適用すると、データのハッシュ値を検証し、改ざんの有無を迅速に特定することが可能です。そのためシグネチャーは通信の安全性確保や向上に貢献します。
また、フィッシングメールなどのなりすましメールは、人間の目では見分けにくいケースも多く、さまざまな被害が報告されています。シグネチャーを用いた電子署名によって送信元の真正性を確認できるため、なりすましメールによる詐欺や攻撃のリスクを軽減できます。
・マルウェアやサイバー攻撃を検知できる
マルウェアやサイバー攻撃は年々手口の巧妙化が進んでいるため、既知の脅威を迅速に検出し、適切な対策を講じることが不可欠です。シグネチャーを活用することで、マルウェアのコードや挙動をデータベースに登録し、一致するパターンを検知して脅威を素早くブロックできます。
また、パターンファイルを定期的に更新することで、新たなウイルスや攻撃手法にも迅速に対応できます。
・法律面やビジネス面で信頼性の向上につながる
電子契約やデジタル取引が普及する中、取引における契約の真正性を保証することは企業にとって重要な課題です。シグネチャーは電子署名として機能し、契約の証拠能力を向上させます。これにより、契約時のトラブル回避や法的な証拠の確保が可能です。クライアントやユーザーからの信頼性が向上し、企業の競争力強化にもつながります。
シグネチャーの活用例
シグネチャーは、WAFでの攻撃探知やウイルス対策ソフトのパターンファイル、電子契約サービスでの応用などのシーンで活用されています。
・WAFでの攻撃検知
多くのWAFは、Webアプリケーションへの攻撃を防ぐために名簿状に登録されたシグネチャーを参照し、通信を検査します。過去に発見された攻撃のパターンを記録し、リクエストやサーバの応答を照合することで不正なアクセスを検知・遮断する仕組みです。一致するパターンが見つかった場合、あらかじめ設定されたセキュリティポリシーに基づいて警告を出したり、通信を遮断したりといった対策を講じます。
シグネチャー方式の強みは、既知の攻撃に対して高い精度で防御できる点です。特定の攻撃パターンのみを定義するため、誤検知率を抑えることができます。
シグネチャー方式以外には、ロジックベースと呼ばれる方式があります。シグネチャー方式が「名簿を見て判断する」のに対し、ロジックベース方式は「事前に定めたルール(ロジック)をもとに攻撃を検知する」仕組みです。シグネチャー方式では過去に発見された攻撃をもとにパターンを登録しますが、ロジックベース方式では攻撃ごとの個別のパターンを記録せず共通する特徴を分析してルールを導き出します。そのため、ひとつのルールが多数の攻撃パターンをカバーできるという特徴があります。
・ウイルス対策ソフトのパターンファイルとして活用
シグネチャーはマルウェアやウイルスのパターンファイル(識別情報)として活用できます。マルウェアやウイルスは日々新たに生み出されており、従来の防御策だけでは対応しきれません。
しかし、パターンファイルを定期的に更新しておけば、新たに生み出された脅威にも素早く対応することが可能です。具体的には、既知のマルウェアの特徴をデータベース化し、それに基づいてスキャンを行うことで、パターンに一致する脅威を高精度で検知できます。この仕組みにより、万が一ウイルスが侵入したとしても、被害を最小限に抑えることが可能です。
・電子契約サービスなどでの応用
近年、電子契約はさまざまな場所で利用されていますが、データの改ざんリスクも存在します。その対策として有効なのが、シグネチャーを活用した電子署名です。電子署名は、契約文書のデータから生成されたハッシュ値を暗号化して付与することで、内容の改ざんを防ぎ、契約の真正性を保証します。万が一、契約文書が改ざんされた場合でも、署名の検証時に一致しないため、不正な変更を即座に検出できます。
また、電子署名を活用することで、リモートワーク環境でも安全に契約手続きを進めることが可能です。対面での押印や書類の郵送が不要となり、契約の迅速化にもつながるため、業務効率化に貢献します。
シグネチャー導入の流れ
一般的に、以下のような流れでシグネチャーを導入します。
- 自社のセキュリティ要件を洗い出す
- シグネチャーの運用設計を実施し、関係者と共有する
- 導入後の保守・運用を見据え、外部ベンダーとの連携や監視体制を整備する
まず、自社のシステム構成や想定されるリスクを明確にし、セキュリティ要件を洗い出します。どのような脅威に対応する必要があるのかを把握することで、適切な製品の選定が可能です。
次に、シグネチャーの運用設計を行い、適切な運用フローを構築します。シグネチャーの適用範囲や管理・更新のルールを策定し、社内のIT部門やセキュリティ担当者、経営層などと情報を共有しましょう。
最後に、導入後の運用を想定し、外部ベンダーとの連携や監視体制を整備します。社内にセキュリティの専門家がいない場合、シグネチャーの適切な設定や継続的な更新を自社内だけで行うのは困難です。信頼できるベンダーを選定し、監視体制を強化することで、長期的なセキュリティの維持につなげましょう。
シグネチャー導入の注意点
シグネチャーの導入や運用にあたっては以下のような注意点も存在します。
- 誤検知リスク
- 適切な更新が必要
- 運用コストの上昇
シグネチャーは数が増えるほど誤検知のリスクが高まります。シグネチャー方式では、新たな攻撃が発見される度にシグネチャーを追加しなければならず、頻繁なアップデートが必要です。しかし不要なシグネチャーが蓄積されると正常な通信まで遮断してしまう可能性があるため、必要なシグネチャーのみを維持しなければなりません。
適切な更新が必要になる点も重要です。攻撃手法は日々進化しており、シグネチャーの更新が滞ると新たな脅威に対応できません。また、シグネチャーが作成されていない「ゼロデイ攻撃」には対処が難しく、シグネチャー方式だけでは完全な防御が難しいことを理解しておく必要があります。
運用コストも無視できません。一部のベンダーでは機械学習を活用して不要なシグネチャーを最適化する取り組みも行われています。しかし、必ずしも最適な結果が得られるわけではなく、コストが上昇する場合もあります。
それでも、既知の脅威への確実な防御手段として、シグネチャーの導入は依然として有効です。
まとめ
シグネチャー方式は既知の攻撃への有効な対策ですが、新たな攻撃が次々に登場する中ですべての攻撃を記録するのは困難です。ゼロデイ攻撃への対応が難しいという課題もあります。
こうした課題を解決する手段としておすすめなのが、クラウド型Webセキュリティプラットフォームの「Cloudbirc WAF+」です。シグネチャーベースの検知に加え、AIや機械学習を活用したロジックベースの分析を併用することで、未知の攻撃にも柔軟に対応可能です。WAFによるセキュリティ対策を検討する際には、ぜひCloudbric WAF+をご活用ください。
シグネチャーとロジックの違いに関しては、こちらの記事も併せてお読みください。