この1年を振り返ってみると2020年はコロナ一色でした。コロナ禍でオフラインでの活動が制限され、その分デジタルシフトが一気に進みました。様々なサイバーセキュリティ事件も発生しつつありますが、特に今回はDDoS攻撃に注目してみたいと思います。カルペルスキーの調査によると、2020年DDoS攻撃量が2019年に比べ3倍に増加しています。日本では不正アクセスの被害に比べ、DDoS攻撃への注目度は比較的に低いようですが、「DDoS攻撃の地理的分布」をみると、日本は初めて9位(0.18%)にランクインしていることが分かります。それでDDoS攻撃に対してより一層厳しい注意が求められます。今回は世界各地から発生した2020年第3四分期までの主要DDoS攻撃事件をまとめてみました。
分期別DDoS攻撃事件
第1四分期
1月:ギリシアでは政治的な動機で行われたサイバー攻撃が観測されました。政府機関及び応急サービスのWebサイトを狙った2回のDDoS攻撃の試みで首相、警察、消防署のWebサイトが一時停止されました。1回目の場合、トルコのハッカー組織「Anka Neferler Tim」が犯人であることが明らかになりましたが、2回目の犯人はまだ見つかっていません。
3月 : 3月中旬、新型コロナウイルス感染拡大への対応で重要な役割を担う米保健福祉省(HHS) のWebサイトからDDoS攻撃の試みが検知されました 。この攻撃はデータの窃取などを目的としたものではなく、新型コロナウイルスにおける対応への妨害が目的とみられます。
ドイツとホランダのフードデリバリーサービス会社のLieferandoとThuisbezorgdは DDoS攻撃によるシステム障害で、顧客の注文をまともに処理できなかったため、全額返金するといった事件が発生しました。Lieferando社の場合、DDoS攻撃の停止と引き換えに2BTC ($ 13,000 USD以上) を要求されました。
第2四分期
5月:5月には特に米国の人権団体を狙ったDDoS攻撃が急増し、1ヶ月で約1,120件の攻撃が報告されました。これらの攻撃は米ミネソタ州のミネアポリスでアフリカ系アメリカ人のジョージ・フロイドが警察の不適切な対応で死亡した事件への抗議デモを妨害させる目的でした。抗議デモが広がるにつれてミネアポリス市警への不満も寄せられ、市警のWebサイトを狙ったDDoS攻撃も発生しました。犯人はハクティビズム(政治的主張を基づきハッキング行為を行う)のハッカー集団「アノニマス」で、「ジョージ・フロイドの死」事件に対するネアポリス市警の犯罪事実を暴露する目的で攻撃を行い、ミネアポリス市警のWebサーバがダウンしました。
6月:6月中旬から7月初旬まで、ロシアでは憲法改正の是非を問う国民投票が実施され、投票期間中に中央選挙管理委員会とオンライン投票サービスを狙らったDDoS攻撃が発生しました。
6月中旬、米国の情報セキュリティ会社Cloudflareは6月18日から21日まで四日間DDoS攻撃を受けました。この攻撃は1秒あたり最高7億5400万パケットの速度を持ち、極めて大規模なDDoS攻撃でした。攻撃トラフィックは31万6000以上のIPアドレスから発信されたもので、Cloudflareの無料プラン利用者が使っていた1つのIPアドレスを狙った攻撃であったと見られています。
第3四分期
2020年第3四分期は多数の組織がArmada Collective、FancyBear、Lazarus などのハッカーグループから脅迫メールを受け、DDoS攻撃の停止と引き換えにビットコインで身代金を要求された事件がありました。
8月~9月:脅迫型DDoS攻撃の標的となったNew Zealand Stock ExchangeのWebサイトが数日間オフラインになる事態が発生しました。その他にもPaypal、Braintree、 Indian Bank Yes Bank 及び多数の金融機関にビットコインで金額を要求する脅迫メールが送られたことが確認されています。
また第3四分期では、メディア組織を狙ったDDoS攻撃事件が少なからずありました。ロシアのテレビ放送局のDozhd は8月24日、週・夜間放送中、ニュース報道を停止させようとする攻撃を受けました。携帯キャリアのUgraproも9月初旬頃、一秒あたり5,000パケット以上のジャンクトラフィック攻撃がロシアや他の地域から送り付けられ、大きな被害を受けました。
2021年DDoS攻撃動向予測
2020年も残り僅かとなりますが、いまだに新型コロナの流行は落ち着いていない状況です。クリスマスと年末年始を迎え盛んになる取引行為も主にオンライン上で行われると予測できます。このようなオンライン活動の増加がDDoS攻撃被害の原因にならないように細心の注意を払うことが重要です。
今回の2020年主要DDoS攻撃を調べてみた結果、DDoS攻撃は地域や産業群を問わず発生していること、そしてDDoS攻撃者は社会・政治面における話題に伴って動いていることを把握できました。企業のセキュリティ担当者は以下のようなトピックにおいてDDoS攻撃の可能性を常に念頭に置く必要があります。
デジタルトランスフォーメーションと2021年オリンピック
企業にはDX(デジタルトランスフォーメーション)を通じて事業競争力を向上させることが重要な課題となっていますが、その一方サイバー攻撃の被害が増加していることもデジタル化の過程で解決すべきの問題であります。今年にDDoS攻撃の発生が増加したのは、コロナ禍につれて一気に進んだデジタルシフトが主な原因だと見られているため、DXの推進と共にDDoS攻撃への警戒心を持ち、被害を未然に防止することが重要です。
2021年開催予定である東京オリンピックもDDoS攻撃者にとって良いチャンスになる可能性があります。Ciscoの報告書によると、2016年リオオリンピックで約1カ月間の大会期間中に検知されたDDoS攻撃が223回で、極めて大規模な攻撃が行われました。2021年の東京オリンピックでこのような攻撃が発生しないという保証はできません。
加速するDXと国際的なイベントであるオリンピックによって大規模なサイバー攻撃に露出されないためには、DDoS攻撃を含むサイバーテロに徹底的に備える必要があります。
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